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第452号 1995(H7).07発行

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被覆肥料の溶出特性とその利用

新潟大学 農学部
応用生物化学科土壌学教室
教授 金野 隆光
岡山県立農業試験場 化学部
研究員 石橋 英二

1.はじめに

 被覆肥料は,被覆資材の種類や被覆の厚さを変えることによって肥料成分の溶出速度を変えることができるため,一定の肥効持続日数を想定した各種の製品が開発販売されている。これらの肥料の特性を生かした適切な組み合わせをすることによって,各種の作物の養分要求量に応じた施肥が可能となり,利用率向上が期待できるし,また,河川や湖沼に対する負荷量低減も期待できる。さらに,最近,一定期間養分が溶出しない被覆肥料が開発され,「水稲不耕起移植栽培における育苗箱全量施肥(1)」のような超省力的栽培技術も可能となっている。

 筆者らは,反応速度論的方法を用いて,水田土壌における被覆窒素肥料(LP140,LP100,LPSE,LPSS100,被覆尿素A)からの窒素溶出パターンを解析した結果,①被覆肥料の窒素溶出は,一次反応式で説明でき,五つの特性値(溶出速度,溶出速度の温度依存性,誘導期,誘導期の温度依存性,最大溶出率)で特徴づけられること,そして,②温度変換日数の理論が適用できること,さらに,③それらの特性値と理論から自然界における溶出量を予測できることを報告した(2)。本報告では,被覆肥料の特性値について解説し,気候区分の異なる地域の水田における窒素溶出パターンを明らかにし,被覆肥料の使用法を論議する。

2.被覆肥料の溶出特性値

 被覆肥料の温度別窒素溶出曲線を図1に示した。また,25℃への重ね合わせ曲線を図2に示した。これらの溶出曲線を速度論的に解析し,五つの特性値が得られたので,これを表1に示した。また,図2のように温度別の窒素溶出曲線が25℃曲線によく重なることから,温度変換日数の理論が適用できることが実証された。

1)一次反応式と速度定数k

 図1中の曲線は,一次反応式にあてはめたもので,窒素溶出が一次反応式でよく説明できることを示している。溶出曲線の式は次の通りである。

 窒素溶出率 N(%)=100(1-exp(-kt)) 〔1〕
  k;速度定数  t;日数

 速度定数k(25℃)の意味は次の通りである。

 LP100の例ではk=0.0214であるが,これは25℃のもとで1日に残存窒素の2.14%が溶出する。LP140ではk=0.0177で,これは25℃のもとで1日に残存窒素の1.77%が溶出する。
 このように,速度定数kは標準温度のもとで1日に何%が溶出するかを表す数値である。

 5種の被覆肥料から得られた速度定数は0.0177~0.0.326の範囲にあり,水田土壌における土壌窒素の無機化速度の2~5倍であった。

2)みかけの活性化エネルギー(Ea)

 溶出速度が温度変化によって大きく変わることは経験的にわかることである。みかけの活性化エネルギー(Ea)というのは,反応固有の感温性を表すものである。LP140,LP100,LPSEはEaが77~98kJにあり,溶出速度が温度変化に対して敏感な反応に属している。

 活性化エネルギー(Ea)と温度係数(K)との関係を表2に示した。表の見方であるが,LPSEのように活性化エネルギーが100kJに近い場合には,15℃付近で温度1℃の変化によって溶出速度が14.5%増減することを意味している。

 他方,被覆尿素Aのように活性化エネルギーが70kJに近いものは,15℃付近で温度1℃の変化によって溶出速度が10.2%増減することを意味し,被覆尿素AはLPに比して感温性が鈍いことが示される。

 このように,活性化エネルギー(Ea)は温度変化に対して敏感か鈍感かの尺度である。

3)誘導期(TAU) 〔窒素が溶出を開始するまでの期間〕

 本試験に使用した被覆肥料はいづれも誘導期があることがわかった。すなわち,水田土壌に施用されて直ちに窒素溶出が始まらないで,一定期間たった後に溶出が始まる特性がある。

 そして,培養温度に関わらず一定期間後に溶出するタイプ(LP100,LP140)と,培養温度によって誘導期間が変わるタイプ(LPSE,LPSS100,被覆尿素A)とがあることがわかった。解析結果は,LPSEとLPSS100は培養温度に依存しない誘導期と培養温度に依存する誘導期があるという結果が得られた。

 溶出開始までに要する期間のうち温度に無関係の期間をTAUと表現した。また,溶出開始までの期間のうち温度に依存する期間をTAUと表現した。さらに温度に依存する期間(TAU)の感温性を活性化エネルギーEa2で表現した。

 LP140,LP100ではTAUがそれぞれ10.9日,8.0日であった。LPSEはTAUが12.2日,TAU(25℃)が26.4日であった。LPSS100はTAUが9.1日,TAU(25℃)が43.5日であった。被覆尿素AではTAUが0日,TAU(25℃)が26.2日であった。

 これらの特性は,寒冷地で使用する場合,温暖地で使用する場合などでの肥効予想に大きく影響する。

4)最大溶出率(A)

 LP肥料の溶出曲線は最終的に100%溶出するようにみうけられるが,被覆尿素A肥料では90%ぐらいで頭打ちになる傾向があった。そこで溶出予測を精密にするため最大溶出率(A)の概念を導入した。

3.被覆肥料からの窒素溶出予測

 被覆肥料の溶出特性が把握できたら,次に自然条件における溶出量を予測する。予測法について簡単に述べる。

1)一次反応式の特性

 一次反応式に基づく窒素溶出曲線には,次の特徴がある。

 図3に温度別の窒素溶出曲線のモデルを示した。

 溶出量が50%になるまでの日数は,17.5日,35日,70日と温度が低く速度定数が小さいほど長い。しかし,50%が溶出するまでの培養日数と速度定数との積は一定という関係にある。すなわち,

 tk=tk=tk=一定  〔2〕

 この関係式から,曲線①の培養日数に1/2を掛ければ,曲線①を曲線②に重ねることが可能である。言い換えれば,ある温度の培養日数を他の温度の培養日数に変換できることを意味している。

2)アレニウスの法則

 速度定数kと温度Tとの間にはアレニウスの法則が適用できる。

 k=Aexp(-Ea/RT)  〔3〕
  k;速度定数,A;定数,Ea;活性化エネルギー,R;気体定数,T;絶対温度

 この関係式から,温度Tにおけるkと温度Tにおけるkとの関係は次式で表される。

 この式から,①kとkがわかればEaが求められる。②kとEaがわかればkを求めることができる。

3)温度変換日数(DTS)

 温度変換日数とは,ある温度である日数おかれた条件が,標準温度に変換すると何日に相当するかを表したものである。簡潔にいうと,温度変換日数は,“自然条件の日数を標準温度に変換した日数”である。

 自然条件下の1日の反応量を知るために温度変換日数は有効である。いま,ある日の温度がT,速度定数kでの1日分の反応量が,標準温度をT,速度定数kの条件下での何日分の反応量に相当するかを,次のように導くことができる。

 〔2〕から  t=tk/k  〔5〕
 〔4〕と組み合わせて

 このように,標準温度Tの速度定数kと活性化エネルギーEaがわかっていれば,①任意の温度の速度定数kを求めることができ,②自然条件の培養日数を標準温度の培養日数に変換できる。

4)溶出予測の計算例

 LP100の窒素溶出量が20%になるまでの,山形と福岡における計算例を表3に示した。

手順1

 1日毎に地温データを用いて温度変換日数(DTS)を計算し,累積DTSを算出する。

 〔6〕式から
  DTS=exp(Ea(T-T) / RTT)  〔7〕

手順2

 1日毎に累積した温度変換日数(DTS)を用いて溶出率を計算する。

 溶出率(N%)
  =100*{1-exp(-k〔累積DTS〕)}  〔8〕

 表3で使用したLPの窒素溶出特性値は,
 k=0.0241,Ea=77,900Jmol-1,TAU=8日
 A=100,R=8.3145,標準温度25℃である。

 表3からわかるように,地温の低い山形では,1日のDTSが小さく,溶出率が20%に達するのに17日を要しているのに対し,福岡では1日のDTSが大きく,11日間で20%溶出率に達している。

5)各種被覆肥料の窒素溶出量の予測結果

 図4に山形,岡山,福岡における被覆肥料の溶出パターンを示した。誘導期の短い肥料ほど速く溶出開始し,50%溶出するまでの時期が早い。すなわち,LP100,LP140,被覆尿素A,LPSE,LPSS100の順である。

 寒地(山形)では移植期の地温が低いので暖地(岡山,福岡)に比してLP100,LP140の窒素溶出は緩やかである。これに対し暖地では地温が20℃になってから移植されるので,LP100,LP140の窒素溶出は早い。後期溶出型被覆肥料(LPSE,LPSS100,被覆尿素A)では,溶出開始してから1ヶ月間に,寒地(山形)では50%,暖地(岡山,福岡)で60%が溶出する。

 図5に土壌窒素の無機化パターンを寒地と暖地を対比させて示した。これは可給態窒素=20mg/100g soil,無機化速度定数k(25℃)=0. 004,感温特性値Ea=75,000として,それぞれの移植期以降の地温を用いて計算したものである。

 寒地では生育前半の1日当たりの窒素供給量が少なく,幼形期までの供給量は3mg,出穂期までに4. 5mgであるのに対し,暖地ではそれぞれ4.5mg,6mgである。このように同一の土壌であっても気候区分の異なる地域においては土壌からの窒素供給パターンが違っている。

 従って,土壌の窒素供給特性と被覆肥料の溶出特性とを考慮した施肥が必要である。

4.水稲栽培における被覆肥料の使い方

 稲作における施肥では当該地域・品種の好適な窒素吸収パターンと土壌から供給される窒素量との差を肥料で補うことを基本とする。このため従来の施肥体系では稲作期間中に数回に分けて窒素の追肥を適宜行ってきた。しかしながら,大規模化や兼業化の進行に伴い施肥労力の軽減が求められ,また環境保全などの社会的要請も強まり,被覆肥料を用いた施肥技術が急速に普及している。

 被覆肥料は,早くから溶出を開始し継続的に窒素成分を溶出する全期間溶出型と,溶出開始までに長い誘導期のある後期溶出型の2種類に大別され,それぞれの役割,使い方が違っている。

 全期間溶出型被覆肥料は土壌窒素の無機化パターンに比較的似たような溶出パターンを示すので,地力窒素供給力を補強する肥料といえる。これに対して,後期溶出型被覆肥料は生育途中から溶出を開始し追肥的効果をねらった肥料である。

 一般的な使用法としては溶出パターンの異なる数種の被覆肥料と速効性窒素を用いて,水稲の理想的な窒素吸収パターンに見合った窒素が供給されるように配合する。

 速効性窒素の配合割合は地域・作期によって異なる。つまり,暖地では地温が20℃以上になって移植するため,移植直後から土壌窒素の無機化が盛んで,分けつ期から幼穂形成期頃に土壌窒素無機化量が最も多くなる(図5参照)。この為,速効性窒素の肥効と重なって初期生育が過繁茂になりすぎ,最高分けつ期後の長い停滞期に稲体窒素濃度が低下し,有効茎歩合が低下することによって多収とならないことが多い。

 このため地力が低い圃場を除いては初期生育促進のための速効性窒素は不要で,全期間溶出型被覆肥料から溶出してくる窒素と土壌から無機化してくる窒素で適度な初期生育量を確保でき,秋まさり的な生育相にすることができる。

 これに対して寒地では移植時の地温が低いため,分けつ期の土壌窒素の無機化量は少なく,幼穂形成期から穂揃い期頃にかけて多くなる。このため,寒地では初期生育確保のために土壌中の窒素濃度を高める必要がある(図5参照)。

 さらに,寒地では全期間溶出型被覆肥料の溶出パターンは暖地以上に直線的で地温が低いため分けつ期の溶出量が少ない。このため寒地では速効性窒素の配合がより重要になる。

 暖地においては現在流通している後期溶出型被覆肥料の中で最も溶出開始時期が遅いものでは,晩生品種の穂首分化期頃に溶出が始まる。つまりこの利用によって丁度ラグ期追肥と同等の効果を得ることができる。(ラグ期追肥:穂肥施用時期までの体内窒素濃度の低下を防ぐための追肥のこと)しかしながら,この時期に稲体中の窒素濃度が高すぎると下位節間が伸びて倒伏につながることが懸念される。

 実際問題として,溶出開始後5日間の積算溶出量を施肥窒素の20%,施肥量を4kg/10aとして計算すると10a当たり0.8kgにしか相当せず,この時期の一般的な施肥量と比較して決して多くない量である。それ故,窒素施用量が適切で生育が過繁茂にならないような状態では後期溶出型被覆肥料の溶出開始時期に神経質になる必要はない。

 暖地では溶出開始時期がさらに遅い被覆肥料が開発されれば,穂肥的効果をねらった施肥が可能になる。その際,現在の後期溶出型被覆肥料では収穫期になっても肥料が残存するため,もっと速い溶出速度をもち,90%以上溶出するもの,さらに,誘導期TAUの感温特性値Eaの低い被覆肥料の開発が望まれる。

 被覆肥料の利用は省力化,環境保全的さらに窒素利用率が高いことによる減肥など非常に有効な肥料であるが,多収穫栽培技術とまでは至っていないのが現状である。多収穫栽培技術とするためには多様な溶出パターンを持つ肥料の配合割合をその地域に最も適するように自由に調整し,より水稲の理想的な窒素吸収パターンに近づける工夫が必要である。

引用文献

(1)金田吉弘・栗崎弘利・村井隆:肥効調節型肥料を用いた育苗箱全量施肥による水稲不耕起移植栽培,日本土肥誌,65(4),385-391,1994

(2)石橋英二・金野隆光・木本英照:反応速度論的方法によるコーティング窒素肥料の溶出評価,日本土肥誌,63(6),664-668,1992